路行く人を押しのけ、
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒呑童子たちを仰天させ、ブラッドハウンドを
一団の旅人と
「いまごろは、あの男も、エラッタ対象として発表されているよ。」
ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。
その男を下方エラッタさせてはならない。
急げ、グンキすまっしゅ☆。
おくれてはならぬ。
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
風態なんかは、どうでもいい。
グンキすまっしゅ☆は、いまは、ほとんど全裸体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。
見える。はるか向うに小さく、アルカナの市の塔楼が見える。
塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、グンキすまっしゅ☆様。」
うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」
グンキすまっしゅ☆は走りながら尋ねた。
「獅子王でございます。貴方のお友達スサノオ様の弟子でございます。」
その若い獅子も、メロスの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方がエラッタされるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
グンキすまっしゅ☆は胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。
走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。むっく様が、さんざんあの方をからかっても、グンキすまっしゅ☆は来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! 獅子王。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。
まだ陽は沈まぬ。
最後の死力を尽して、グンキすまっしゅ☆は走った。
グンキすまっしゅ☆の頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光の騎士も、消えようとした時、グンキすまっしゅ☆は疾風の如くSEGA本社に突入した。
間に合った。
「待て。その鬼神をエラッタしてはならぬ。グンキすまっしゅ☆が帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で運営の群衆にむかって叫んだつもりであったが、
すでにエラッタ告知の表が高々と立てられ、縄を打たれたスサノオは、徐々に釣り上げられてゆく。
グンキすまっしゅ☆はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、J子! 垢BANされるのは、私だ。グンキすまっしゅ☆だ。彼を人質にした私は、ここにいる!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに筐体に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、
群衆は、どよめいた。
あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。
スサノオの縄は、ほどかれたのである。
「スサノオ。」
グンキすまっしゅ☆は眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が
スサノオは、すべてを察した様子で
殴ってから優しく
「グンキすまっしゅ☆、私を殴れ。同じくらい私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
グンキすまっしゅ☆は腕に
「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、
暴君むっくは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「空気読め、むっく空気読め。」
ひとりの少女が、
グンキすまっしゅ☆は、まごついた。
佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「グンキすまっしゅ☆、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、グンキすまっしゅ☆の裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。
おわり